水銀に秘められた力水銀に秘められた力錬金術の歴史を通して、とりわけ際立った現象として目に付くのが、 重元素の一つである水銀に、錬金術師達がすっかり魅了されていた事である。 その形状が説けた状態の銀に似ていることを一切度外視したうえで、 錬金術師達は一風変わった神秘的な力が水銀に宿っていると本気で信じていたのだった。 現代科学では、そうした水銀の特異性もようやく解明の緒についたばかりの所だが、 現存する文献を見る限りでは、現代人よりも大昔の人々の方が水銀の並外れた力をはるかに良く知り抜いていたらしい。 アイザック・ニュートン 水銀が金属変成の鍵を握ると考えた科学者は他にもおり、中でも万有引力の発見ほか数々の業績を残し"近代科学の父"として、 その名を今に残すアイザック・ニュートン卿の場合は、 金属変成の実験に多くの時間を費やした結果、彼自身が水銀中毒に冒されてしまっている。 ニュートンが書きためた錬金術関係の研究記録は、枚数にして何千枚にものぼるが、それらは刊行されることはなかった (そうした原稿は、1930年代に入ってから個人収集家達に売却されている)。 現代の錬金術師達 1980年代の初頭に入ると、"赤色水銀"と呼ばれる無類の力を持った、 あまり耳慣れない爆発物を一部の科学者達が開発したという噂が広がってきた。 当初この物質の存在は夢物語として片付けられていたが、 今日では科学者達もそうした物質が実在するという事を、かなり真剣に受け止めている。 というのも、この赤色水銀には絶大な威力が備わっているだけではなく、核兵器の開発に利用できるほどの技術力も 投入されていたので、そのような物質が存在する事自体、 核兵器の拡散に歯止めをかけようとする世界の大勢に、大きな脅威をもたらしかねないからだ。 専門家の話によると、この物質を利用して、野球ボール大の中性子爆弾を製造することもできるそうだ。 科学者達は、この赤色水銀の正体を、原子炉の中で水銀とアンチモンを融合させて造られた化合物だと考えている。 昔の錬金術師も、水銀とアンチモンの融合実験に取り組んでいたが、彼等にはそれを達成させるだけの技術力がなかったのだった。 さらに錬金術師たちが目標に掲げていた卑金属を黄金に変える作業も現代科学者たちにとってはあまり重視されておらず、 今日では原子物理学の助けを借りて、元素の変成を行う事ができる。 そうした未来を知る由もなく、錬金術師達は原子力時代が幕を開けようとしていた時期になっても、 金属変成の実験を重ねていたのだった。 錬金術 賢者の石 |